ホーム > 【布仕事辞典】和裁士とは?意外と幅広い仕事内容やスキル・なり方を紹介
2020.10.30
今回の【布仕事辞典】では、着物・反物に関わる仕事「和裁士」について取り上げました!
現代の日本では、海外からやってきた「洋服」を着るようになり、和装する機会が限られています。夏祭りの浴衣や、成人式の振袖、結婚式での白無垢など、数限りある機会だからこそ上質な着物を着たいですよね。
和裁士はそんな私たちに、上質な着物を提供するお仕事。ここでは、和裁士の具体的な仕事内容やスキルなどを見ていきましょう!
目次
和裁士とは、和服を作ったり、お直ししたりする仕事を生業とする人のこと。
洋服の裁縫をすることを「洋裁」と言うのに対し、和服の裁縫をすることと「和裁」と言います。いわゆる、和服専門の縫製士、またはお直し屋さんなのですね。
ただ、洋裁をする人は「デザイナー」「パタンナー」など細かい分野に分かれていることが多いですが、和裁士は1人で何役もこなす人が多いのが特徴です。
その理由は、人数が限られているから。現代では洋服が主流のため、洋服に関わる仕事を選ぶ人の方が多く、和服に関わる仕事を選ぶ人が少なくなっています。
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和裁士の仕事内容は大きく分けると3つです。
・仕立て ・お直し ・指導、育成
この3つをすべて担う和裁士もいれば、仕立てとお直しに従事する人、もしくは仕立て専門・お直し専門の人も。
それでは、それぞれの仕事内容を詳しく見ていきましょう。
あなたは呉服店に足を運んだことがあるでしょうか?現在は既製品が売られている呉服店も多いですが、反物(一枚の大きな布)が商品として並び、反物を購入して和服に仕立ててもらうのが昔の呉服店でした。
和裁士はそこで売れた反物を、その人の体型・希望に合わせた着物に仕立てていきます。もちろん、お店に並べるための既製品(まだ売れる前のもの)を作ることもあります。
そして覚えておきたいのが、和服は基本的にミシンで縫うことができない服だということ。よって、和裁士は一つひとつ手縫いで仕立てていくのです。
着物に不備がある場合には、その不備を直すのも和裁士の仕事です。
例えば、ほころびが1箇所あるだけでも着物の高貴な印象が失われてしまいますよね。ほころび直し、寸法直し、たるみ直し、生地の取替直しなど、着物には意外と直すべき部分がたくさんあります。
着物はファストファッションのように毎年取り替えるものではなく、長年使っていくもの。3世代受け継がれることも多いでしょう。
そんな着物を大切に、長く着続けるためには、お直しは必要な過程なのです。
どの縫製所にも見習いを育成する体制はあるもので、アシスタントを抱える縫製士もたくさんいます。和裁士も例外ではありません。
指導の方法は、呉服店で見習いを受け入れたり、もしくは学校や和裁所などで講師として指導に赴いたりすることもあります。
ただ和裁士の数が減っている今、よりいっそう見習いの指導・育成に注力しなければいけません。人数が少ないからこそ、技術力の高い人材が今後必要になるためです。
上質な着物を手縫いで仕立てていく和裁士に、憧れたことがある人もいるのではないでしょうか?
実は、和裁士になるために必ずしも学校に行く必要や専門校を卒業する必要はありません。よって、すでに大学に通っている学生や卒業済みの社会人でも、今からでも和裁士を目指すことができます。
ここでは、和裁士になる方法をご紹介しましょう。
まずは和裁士に求められるスキル・能力を見てみましょう。
・和裁技能士(国家資格) ・手先の器用さ・正確性 ・和服を仕立てるスピードの早さ ・地道な作業をコツコツと続ける忍耐力の高さ
和裁士として働くには、「和裁技能士」という国家資格が必要。「学校に行く必要はないけれど、高い技術力が求められる」ということがよく分かりますよね。しかもその技術力は、一朝一夕で身に付けられるものではありません。
和裁士を目指している人は、今からでも少しずつ技術を磨いていくといいでしょう。
和裁士になるには、まず和裁技能士の資格取得を目指しましょう。和裁を学ぶ方法はいくつかあります。
・大学や専門学校で和裁専門コース ・和裁所に見習いとして就職する ・直接和裁士のアシスタントになる ・通信講座で和裁士の講座を受ける
和裁を学び、和裁技能士2級を取得します。(和裁技能士は3級からありますが、和裁士として活躍するには2級以上が必要)
その後、和裁所や呉服店、もしくは個人の和裁士の元に就職。ここまで学んできた技術を使って、和装士としてのキャリアをスタートさせましょう!
呉服店よりもファストファッションのお店の方が多い現代、和裁士にはどんな将来性があるのでしょうか?
日本古来の呉服店の多くは、手縫いにこだわっているのをご存知でしょうか?
手縫いはミシン縫いと比べて手間がかかるぶん売値も高いですし、耐久性にも劣ります。安くて入れ替わりが早い浴衣などは、ミシン縫いの方が売り手も利益を出しやすいでしょう。
しかし、それでも手縫いにこだわる理由は「仕立て直し」のしやすさです。着物は崩れてくると糸をすべて解き、仕立て直しや染色直しなどをしますが、ミシン縫いではそれができません。
昔は今のように布地が簡単に手に入る時代ではなかったため、仕立て直しをしながら1つの反物を何世代にもわたって使ってきました。
着物の魅力はまさにそこで、形やデザインだけでなく、「代々受け継がれていく」という歴史持ち、世界に誇れる伝統文化なのです。そんな文化を守るために、和裁士は存在します。
和裁士一本で仕事をするだけでなく、和裁士の技術や経験を使って他の仕事をすることもできます。
例えば呉服店の販売員。日本には個人経営の呉服店もあれば、『きものやまと』のように全国展開するチェーン店もあります。採寸や仕立てに関する知識を持っている和裁士であれば、着物を売りながら仕立てもすることができるでしょう。
また着物デザイナーとしても活躍が可能。着物をデザインするには布地や織の知識、そして和裁の知識・技術が必要です。他にも着付師や、着物+帯+飾りを組み合わせる着物コーディネーターなども素敵ですね。
和裁士の技術を持っていれば、和服・着物に関する仕事はどこまでも広げられるのです。
では、和裁士たちはどんな着物を仕立てているのでしょうか?ここでは、Instagramから和裁士達の“作品”を見ていきましょう!
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反物という大きな1枚の布から、着物を作っていく。着物はシンプルな形ではありますが、実は細かい部分まで注意を払う必要があるなど、意外と難しい素材でもあります。
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和裁士は着物本体だけでなく、羽織りや帯なども仕立てます。季節に合わせたコーディネートを考えるのも、楽しみの1つかもしれませんね。
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もちろん、男性用や子供用の和服・着物も仕立てます。おしゃれ着として日常的に着物が着られる時代になるといいですね。
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見ているだけで上質さが伝わってくる着物ですね。代々続く家柄では、お抱えの和裁士がいるところもあるのだとか。
反物を一つひとつ手縫いするのは大変な仕事。さらに文化を衰退させないように、見習いを指導・教育し、後継者を育てていく必要もあります。
そんな大変な仕事にもかかわらず「和裁士」を選んでいる人は、間違いなく着物文化を愛している人たち。
和裁士がいなければ、私たちは成人式に、茶道や日本舞踊に、結婚式に、上質な着物を着ることができません。
着物に魅力を感じる人、仕立てに込められた思いを知りたい人は、和裁士を目指してみるのもいいかもしれませんね。